弾薬回収作業(1)

パンジシールでは杏の花がちらほらと咲き始めて、畑の緑も日々色を濃くしている。まだ山々の頂に冠雪は残りつつも、蒼空の下に映える杏の花の桃色と緑のコントラストは、春が漸う訪れていることを感じさせる。

パンジシールにはとてつもない量の弾薬が各地に貯蔵されている。これらは元々80年代、ソ連がアフガン国軍のためにカブールに持ち込んだものである。そしてソ連撤退後、国防相となったマスードがカブールから地元パンジシールにせっせと運搬したらしい。カブールでは弾薬を守りきれない、もしくはカブールは他の勢力によって陥落するかもと読んでいたんだろうな、マスードは。なにしろトラックが数年間ほとんど毎日パンジシール渓谷を行き来していたという証言があるように、その全貌は目がくらくらするほどの量だ。仮に今戦争が始まっても数年は持つんじゃないかな。

パンジシールはいわゆる北部同盟という紛争「勝ち組」の中で最も影響力を持つ「パンジシール閥」を生んだ地域。住民もソ連タリバンと勇敢に戦い、自分たちの村や家族を守りぬいたという強い自負を持つ。それゆえにパンジシールの人々は一様に、現在アフガン政府が徐々にパンジシール閥の影響力を削いでいる状況に不満を持ち、またタリバンが今だ一定地域で支配力を温存していることに深い憂慮を抱いている。

こんな状況の中、パンジシールで弾薬回収作業が続いている。私たち回収チームが住民からどのように見られているか何となく想像がつくと思う。言ってみれば、彼らの将来に対する保険である弾薬や武器を取り上げようとしているのである。彼らの既得権益を奪っていると言ってもいい。中には私たちをタリバンやヒズビイスラミ(これも強硬派のグループ)の手先で、弾薬や武器は彼らに横流しされているのではと疑うものもいる。

ちなみに回収された弾薬や武器は使用可能なものは所定の収納場所に集積された後にアフガン新国軍や新警察に再利用され、それ以外のものは破壊することが義務付けられている。よってパンジシールの人々の懸念は当たらない。でもこのような誤解が広まってしまう原因は、将来の治安に対する不安と私たちの広報不足にもある。

そしてアメリカを初めとする連合軍とISAFという外国勢では国の治安は守りきれないという根本的な不安が人々の中にある。この件に関して、どのように対応していく必要があるのか、私の考えを次回もう少し突っ込んで説明したい。

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そういえばこの前、何十年ぶりだろう、「つぶつぶオレンジジュース」をアフガニスタンで飲んだ。多分パキスタン製かイラン製だろう。日本で昔流行ったよね、これ。でも最近見かけたことないなぁ。すごく安っぽくて甘ったるいオレンジジュースにつぶつぶが入ってて、こんなの昔喜んで飲んでたんだなぁ。

ソフトドリンクねたをもういっちょ。最近カブール初のコカコーラ工場が設立され、メード・イン・アフガニスタン・コークが町に出回り始めている。日本でも見かける真っ赤な専用配送トラックがカブールの町を行き来する。

しかしこれまでは輸入物(多分パキスタン製)のペプシアフガニスタンのコーラ市場を席巻していた。アフガン人はペプシが本当に好きだ。バダクシャンという辺境の地域に行ったときも、お決まりメニューは質素なパラオ(ピラフ)に必ずペプシがつく。果たしてコークはシェアを奪うことが出来るだろうか。

既にコークを飲んだという同僚のアフガン人に聞いたら、値段はペプシと同じ、どっちが旨いかと聞いたら即座に「ペプシ」との回答だった。