冬明け間近の一日

職場が1月から2月にかけて変わったため、
もろもろの雑務に追われたり新しい仕事内容にキャッチアップする必要があったりで、
おまけに生来の筆不精というのも加わって、
あれやこれやでいつの間にか2ヶ月以上ブログ更新を怠ってしまった。
所詮私にとってのブログなんてそんなもんなんだろうけれど、
まったく気にならなかったといえば嘘だろう。
なんとも因果な代物である。


新しい職場とはいってもこれまで関わっていたプロジェクトにかかわり続けるのだけれど、
主な違いは
今までの職務が武器や弾薬回収というアップストリームの仕事だったのに対し、
今度は開発プロジェクトの提供というダウンストリームの仕事に関わることになった。
アップ・ダウン云々というのは、一応のプロジェクトのコンセプトとして
武器・弾薬回収の成果が当該地域で上がってから開発プロジェクトを提供する、
という順序に関する暗黙の了解があるからだ。
とはいっても開発プロジェクトは武器・弾薬回収のrewardではない
ということに一応はなっているので、
正確を期すればそこに順序という概念を持ち込んではいけないので、
アップ・ダウン云々とは言ってはいけないことになるんだけれど。


まぁそんなトリビアルな話はさておき。
久々に外仕事に行ってきました。
場所はカブール近郊のカピサ州。
州の東部が若干不安定で、
最近もISAFが爆撃を行って民間人にも死傷者が出たりしている。
とはいえ私が訪れたのは州の中心地区で、
ここらは治安が安定している。
そこでとある開発プロジェクトを始めるので、
その下準備のための調整作業をちまちまと。


それにしても今年のカブールの冬はなかなか明けない。
世界的には暖冬らしいが、
ここでは3月になっても雪やら氷雨(by日野美加、古っ)やらが
連日のように降っていて、
温暖化現象すらアフガニスタンにはビビッて近づかないのか。
暗雲が手の届かんばかりの低き空に立ち込め、
山から丘から雨水を集めたパンジシール川が濁々と流れ、
未舗装の道は雨で緩くなった路面を幾多の車が容赦なく通るため
これ以上ないだろうといわんばかりにでこぼこに成り果て、
鼠色の風景と寒さと乗り心地の悪い車になんとも不機嫌さがいや増しになっていく。
そういえばこんな風にvehicleに乗って揺れまくる遊園地のアトラクションがあったような。
いっそのことアフガニスタンには無料の遊園地アトラクションが
全国至る所にあるとでも謳えば
これも観光産業の一目玉になるのではと
愚にも付かぬ事を妄想しながら不機嫌さを有耶無耶にしようと躍起になっていた。


気を取り直してカピサ名物川魚料理でも食べに行こうということになって、
スタッフと共にパンジシール川沿いのレストランに向かう。
レストランといってもそこには掘っ立て小屋よりも寂しげな
簡素な天幕を張った場所のみで、
川を望みながら強風に煽られつつ
豪快に油で揚げた川魚の開きを、これまた豪快に4人で3キロ分!も食らった。
味はただシンプルに塩をかけるだけ。
後はお好みでレモンやスパイスをさっとふりかける。
これをアフガンのパン(ナンとかチャパティとか)と一緒にむしゃむしゃと骨まで食べる。
アフガニスタンではかなりのご馳走の部類に入るのだとおもう。
でも同僚が言うにはパキスタンの魚料理のほうが旨いらしい。
とはいえ今の環境で最大限贅沢できることといえばこれくらいだし。


帰り道、やっと晴れ間がのぞいた。
太陽の光が差すだけで気持ちが開放感に満たされていくのを感じる。
灰色の風景が一気にカラーに彩られていく。
まだまだ冬だと思っていたのに、
目を凝らしてみると地表に草が生え始めて青づいているのがわかる。
春は近づいている。
きっとあと一、二週間もしたら赤やピンクや白の可憐な花が
そこここに咲き始めるだろう。
日本の桜の見事さには程遠いけれど、
アフガニスタンのあの花は毎年健気に春の訪れを教えてくれる。


カブールに近づいたところで丘を下り始めると、
道にものすごい人だかりが見えた。
警察も到着していたので、一瞬爆弾騒ぎか、と思ったが、
群集の一人に聞いてみると
なんと連日の雨のせいで地盤が緩み、
崖の上に建てられた不法住居群が
地すべりして崩壊しそうになっているらしい。
しかもその崖のふもとはすでに崩れ始めている。
もっと驚いたのは対処法。
その崖のふもとの崩れて窪んだ部分に長い丸太を何十本も立てかけて、
何とか上の岩と住居部分とを押さえているのだった。
こんな対処法でいつまで持つんだろうかと横目で不安に思いながら
その場を通り過ぎて家路を急いだ。