麻薬、買っとく?

タイトルで誤解を与えたら申し訳ない。


つい最近NHKクローズアップ現代アフガニスタンの麻薬問題が取り上げられていたようだ。私はYoutubeでほんの少しだけ見ることができたが、昨日ちゃんと全編を見ようともう一度Youtubeを検索したら、残念ながら既にクローズされていた。日本でご覧になった方もいるかもしれない。非常に根が深く構造的な問題であるが、アフガニスタンで爆発的にケシ栽培が広がった歴史は意外に浅く、確かここ30年くらいの間だと聞いた記憶がある。その長さをどう受け止めるかは人によって異なるだろうが、一文化として定着しているとまでは言えないのでは、というのが私の印象だ。しかし、一度甘い蜜の味を知ってしまったら、そうそう止められるもんじゃない。そもそも産業なんて皆無に等しいこの国で、こんなに儲かる商売はない。現にこの国の最大産業となっているし、GDPの半分位を稼ぎ出しちゃっているという話もある。しかもクローズアップ現代でも出ていたけれど、構造的癒着甚だしく、警察官が取引の片棒を担ぐなんてざらにあることだろうし、もっと大物が元締めになっているという噂は事欠かない。もう皆で渡れば怖くない状態である。


対応策としては、強制力によってとか枯葉剤のようなものを散布するなんて手荒なものまであるけれど、どれも現政権下では抜本的な解決策にはなっていない。ソフトアプローチとして最もよく試されるのは代替作物の導入だが、同じくらい多くの利益を稼ぎ出す作物なんてそう簡単には見つからない。これまで聞いた話ではバラエッセンス、サフラン、マッシュルーム?などを代替物としてこの国で試しているらしいけれど、このようなそれなりに高値で売れそうな農作物を栽培できたところで、海外販路をしっかり確保できないようでは、とても既に流通もマーケティングもしっかり整ったケシ栽培の誘引に太刀打ちできるもんじゃない。しかもこの手の代替作物はそもそも国外に競争相手が多そうだ。その点ケシならこれだけ大量に栽培できる地域は世界の他を探してもそうざらにはない。ケシには他にも優れた利点がある。乾燥地でも栽培しやすく、少量で取引されるため運搬もしやすい。カローラ一台、ロバ一頭さえあれば国境の地まで簡単に運べてしまう。アフガニスタンのような過酷な自然環境と地勢条件、経済状況の中でケシは貧農家にとって救世主のような存在だ。アフガニスタンとケシのコンビネーションには比較優位がありまくりなのである。


ではこの麻薬問題に対処する何か他の手立てはないのだろうか。私は麻薬問題にも門外漢だし、経済学も大学一年のときに経済「史」の単位に逃れた者が言うことなので床屋談義っちゅうことで聞いて欲しいのだけれど、一つ言われているのはケシ栽培を免許制とし、生成物を合法的に政府が買い取ることにして、その使い道を鎮痛剤(ターミナルケアとかに使うらしい)や麻酔のような医療用に専らするというものだ。たとえばSenlis CouncilというThink-tankがずいぶん前からLicensing Poppy for Medicine in Afghanistanキャンペーンというのを張っている。


http://www.senliscouncil.net/modules/Opium_licensing


最初聞いたときには、そうなんだ、ケシって医療用の需要が結構あるんだ、それならこの方法で何とかなるんじゃないか、って思った。Senlis Councilの案を見ると、いわゆる農村共同体の強固な人間関係、Middle menや大物たちの影響力を「合法ケシ栽培・販売」体制にそのまま活用したりと、それなりにFeasibilityもあるのではとも思った。でもよくよく考えてみると、じゃ、まずどのような基準で幾らに単価を設定するのか、政府が買い取った後、売り手を見つけて幾らで卸すのか、全ケシ栽培者から買い取るだけの資金・運搬手段等々リソースを完備するキャパが政府にあるのか、政府にこのスキーム全体を管理し切れるのか、そこに不正腐敗は生じないか、ブラックマーケットとの買い取り価格競争に勝てるのか、結局麻薬栽培に免罪符を与えてしまって、ブラックマーケットまで拡張させてしまわないのか、そもそも自由な取引をさせないこのようなパターナリスティックな仕組みに問題解決をゆだねることの弊害・構造的危険性はないのだろうか、等々考慮・解決すべき課題は多々ありそうだ。とはいえうまくマネージできれば、現金収入を安定して稼げる生産者(農民)、マージンを得られる流通業者(中間業者)、税収などを期待できる国家、利益を見込める外国企業、そして安定した供給と薬効を享受する医療従事者および患者等々、直接的裨益者はかなりのセクターと人数に及ぶだろうし、間接的波及効果まで考慮すれば計り知れないポジティブな影響も見込めそうだ。たとえば日本の政府や医師会、製薬会社が日本の巨大な医療マーケットをこのために一部でもいいから開放してくれたら、相当なインパクトを持つに違いない(そんな「出る杭」的なことを日本がするわけないのだが)。やっぱとっかかりのマーケットはアメリカかヨーロッパになるんだろうな。


個人的には非常に面白いスキームだなぁとは思うのだけれど、いかんせんこの分野のことに全く無知だから、多分専門家の方が読んだら「素人がまた頓珍漢なこといってらー」って思われるのが落ちなんだろうなぁ。どなたかもっと専門的な観点でこのスキームのFeasibilityを分析できる方いらっしゃいませんでしょうか。