Jeff Buckley降臨

先週、帰宅する車内でiPodをシャッフルモードで聴いていたら、
久々にJeff Buckleyが流れてきた。
彼は天才肌のロックミュージシャンとして
90年代半ばから一部でカリスマ的人気を博し始めていたが、
その矢先の1997年、不慮の事故で夭逝した。まだ30歳だった。
私は彼の存在をリアルタイムでは知らなかったが、
南米を旅行していたときに偶然出会ったY君(Yさんではないですよ)、
彼はロックにものすごく詳しくて、教えてもらったのがJeffの名前だった。
Jeffの歌声はビロードのように曲毎にその表情を変える。
一方で、どれだけパンク調に絶叫・怒声を張り上げようとも
憂いとか儚さといったFragileな要素を常に抱えていて、
それは夭逝したという事実も影響しているのかもしれないけれど、
歌声のその先にいつも死とかあの世とかそんなモチーフが見え隠れする。
初めてタワーレコードで試聴盤を立ち聴きしたときの衝撃は忘れられない。
非常に月並みだけれど、雷に打たれて茫然自失となる、そんな感じだった。


その彼のデビューアルバムであり、代表作でもあり、
唯一編集がしっかりなされたアルバム『Grace』。


グレース

グレース


このアルバムに収められている曲はどれも無類に美しいが、
私の一番のお勧めは2曲目、アルバム名と同名の「Grace」だ。
何度聴いても身の毛がよだつほど素晴らしい出来栄え。
この曲が突然iPodから流れてきたのである。
久々に聞いたせいもあるだろう、無心に聴き入った。
前半のメロディーでは宛らマラケシュ辺りの路地裏をメランコリックに彷徨う旅人を彷彿とさせ、
後半に向かうにつれてスリリングな暴走モードに入っていき
終盤を迎えるところで完全にあっちの世界、異次元にトリップさせられる。
そこで不覚にもまた強烈な電流が体の中を駆け巡り、
体中の細胞一つ一つがショートを起こして沸騰し、
幽体離脱したかのように放心状態になってしまった。
2001年宇宙の旅』の最後の方に出てくる、
あの異次元空間にトリップするシーン、
ちょっと誇張気味ではあるが、あのシーンを思い出してしまった。
その後は車窓の外に見えるもの全てから意味が剥奪されてしまったかのようで
もうそこには街並みや人はあってないのも同然だった。
私にとってはいまだ驚異的に魂を揺さぶられる曲なのである。


その後、ネットで目にした情報に思わず目を凝らした。
その日はちょうど彼の命日だった。